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「“速さ”の質が違っていた」永井謙佑のルーツを探る(1/6)  

 この原稿は、小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」2011年11月23日配信号(通巻第69号)を全文公開したものです。

 話者は永井謙佑の恩師である福岡大学・乾眞寛監督、九州国際大学付属高の杉山公一監督、そして小澤一郎。2011年9月23日、福岡市内のカフェ・ガレリアにて行なわれた「日本の育成が世界を変える!世界から見た日本サッカーの現在(いま)」の後半部分にあたるものです。

 ロンドン五輪での活躍により、永井謙佑が一躍世界的に注目されるようになりました。しかし、決してエリートではなかった永井のキャリアはここまで様々な紆余曲折を経ています。彼の爆発的なスピードはどこで身についたのか、「特別」な存在だった彼はどう育てられたのか? じっくりご覧ください。


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 第62号および第63号の2回に渡り、9月23日に福岡市内のカフェ・ガレリアにて行なわれたサッカートークライブ&交流会「日本の育成が世界を変える!世界から見た日本サッカーの現在(いま)」の前半(福岡大・乾監督×小澤対談)をお届けした。

 そのトークライブの後半は、九州国際大付属高の杉山公一監督も加わり、「永井謙佑」をテーマに鼎談させていただいた。少し時期が遅くなってしまった上に、U-22日本代表で永井の存在感が薄くなりつつあるのだが(苦笑)、今回はそのトークライブの後半部分を掲載する。

 紹介プロフィールにも記載してあるが、杉山監督は福岡大出身の元プロ選手で、ポジションも永井と同じフォワード。乾監督曰く「永井と同じスピードスタータイプ」であるが、その指導法は実に興味深い。

 通常、小中高、大学とカテゴリー毎にぶつ切りとなる日本の育成環境の中で、師弟関係にある2人の指導者が九国大付高から福岡大でしっかりとバトンを渡しあう「育成リレー」を行なっている点も今後のモデルケースとなるだろう。

 今後もこうした軸を持つ指導者への取材のみならず、交流会やトークイベントも積極的に行なっていきたいと考えている。
 
 

(C)村上裕志



乾眞寛(いぬい・まさひろ)
 1960年3月22日、島根県生まれ。筑波大学卒。現福岡大学スポーツ科学部教授・福岡大学サッカー部監督。2005年にユニバーシアード・サッカー日本代表監督として、大会三連覇を果たした実績をもつ。これまで40人のJリーガーと4人の日本代表選手を輩出している。コーチングに定評があり、講演会へのオファーも多い。また、朝日新聞で「乾眞寛のサッカーウォッチ」を執筆し、Jリーグの試合を解説するなど幅広く活躍している。2010年11月、広州アジア大会で日本初の金メダル獲得に大きく貢献し、得点王に輝いた永井謙佑(現名古屋)も教え子の一人。

杉山公一(すぎやま・こういち)
 九州国際大学付属高校サッカー部監督。広島県立廿日市(はつかいち)高校から福岡大学に入学後、4年間乾監督の下で選手としてプレー。現役時代のポジションはフォワード。大分トリニータの前身である大分トリニティでプレーし、引退後指導者の道へ。2006年にU-22日本代表FW永井謙佑(名古屋)を擁し初の選手権出場を決めるなど、九国大付高を福岡県内有数の強豪校に仕上げた手腕は高く評価されている。




■「なぜか」点を取っていた永井謙佑



小澤 乾監督に聞きますが、杉山監督が福岡大学に選手として入学してきた時の第一印象はどうでしたか? また、大学時代の選手としてのプレーはどう評価しますか? 


乾 彼は、広島の県立高校から一般入試で入ってきました。推薦入試、つまり戦力として獲った選手ではなく、勝手に入って来た選手です(会場笑)。4年生の時はキャプテンを務め、プレースタイルは永井謙佑にだぶるような、縦への抜け出しが速い選手でした。
 
小澤 杉山監督は大学時代、乾監督にどのような印象を受けましたか? 


杉山 実績はもちろんあったのですが、当時は僕も乾監督も若かったですから。乾先生の家に上がりこんで意見をぶつけてみたり、上手く行かなかったことや選手のストレスとかを僕らが代弁したり。(意見を)直接言いあえるぐらいエネルギッシュで、しっかりと受け止めてくれる監督でしたね。
 
小澤 杉山監督がスピードのある選手だったということで、まさに今の「永井謙佑とかぶる」ということですが。
 
乾 そうですね。技術的にうまくはない選手でしたが、杉山監督も経験を積んで、だんだんと上達しました。トリニータのJFL昇格が懸かった大事な試合で、彼は決勝ゴールをあげましたし。そういう勝負強さは、謙佑にかぶるところがありますね。
 
小澤 今回のようにインタビュー形式でお二方がお話するのは、初めてではないでしょうか? しかも「出てください」とオファーをした時も、結構渋られていましたし、ここ最近の取材は断っていたとのことですが。
 
杉山 ちょうど謙佑のオリンピック(予選)が近いので、良いことも悪いこともすごく影響力が出てしまうんですね。あまりしゃべらないほうが良いだろうというのと、僕も高校の指導者であり、あまりこういうところで話をするのはどうかなと。とは思いつつ、今日は「ただの食事会だよ」と騙されてきました。(笑)
 
小澤 そういう意味では、皆さんラッキーでしたね(笑)。それでは、永井謙佑との出会いということで、お二方にそれぞれお聞きしたいと思います。まず杉山監督、永井選手の中学時代を見られてから、高校に入学したときのいきさつをお聞きしてもよろしいですか? 
 
杉山 いきさつは、まあ彼のお兄さんがいたからですかね。
 
小澤 ということは推薦ではなく、お兄さんがいたチームだから入って来たということでしょうか? 
 
杉山 いや、推薦で入って来たんですけど、お兄さんがうちにいたことでご両親がすごく協力的で熱心で、試合もよく見に来られていました。その試合を見て、これだけサッカーを一生懸命するチームとは思いもしなかったそうです。
 
 謙佑の兄貴、トシがこれだけサッカーを一生懸命やっているチームがあるということに気づいて、「うちの弟は勉強で高校に行ったらどうなるかわからない」「県立高校にいって、自由にやっていったらどうなるかわからない」「ここは杉山先生に預けるしかない」ということで。お母さんが「こいつを好きにしてください」とのことで、(面倒を)見ることになりました。中学の頃の彼の大会は、見に行っていたんですけどね。
 
小澤 その永井選手の、中学校の頃の印象はどうでしたか? 
 
杉山 すごく身体が小さかったですね。遠くからみていると本当に小さかった。2トップを組んでいた選手が180センチぐらいあって、まさに僕と(大分トリニティ時代にプレーした)ファンボ・カン選手みたいな関係でした。
 
 一応謙佑を見に行っていたんですけど、「でかいFWがいるな」と彼の方を見ていましたね。だけど、なんか知らないですけどチームが勝つんですよ。なぜか知らないけど、謙佑が点を取る。人のボールをかっさらったり、こぼれ球を拾ったり、そういうものを彼は持っていた。小さな選手がゴール前でしっかりと仕事をしていて、「面白い選手だな」という印象でした。だけど、入学するまでの1年間でかなり大きい選手になっていましたね。
 
小澤 入学してから1年間で15センチ伸びたという話を聞いたことがありますが、高校1年生の時にそれだけ成長したということですか? 
 
杉山 成長したというか、ほっといたら伸びたという感じですね。
 
小澤 それに伴って、例えば中学時代は小柄だったのでスピードはあまり目立っていなかったけれども、高校になってそれが爆発的に目立つようになったということでしょうか? 
 
杉山 (当時は)真っ直ぐにしか走れませんでしたが、すばしっこいのはすばしっこかったんですよ。そして、野性味のある選手でしたね。例えば、木にボールが引っかかったら自分でよじ上ったり。あるいはボールがなくなった時、私が「見つかるまで帰れないぞ」と言って、選手たち皆でグラウンドを探させると、必ず謙佑から「あった!」っていう声があって。「お前が隠したんじゃないか!?」っていうぐらい、毎回見つけてきましたね(笑)。
 

■永井に息づくブラジルのDNA


小澤 野性味があるということですが、以前に乾監督から、謙佑は幼少時代ブラジルで過ごした経験があると聞きました。その経験がもしかするとワイルドさ、あるいは素材の良さという点に繋がっているのではないかと。その辺りは、いかがですか? 
 
乾 彼は3歳から5年間、お父さんのお仕事の関係でブラジルにいました。ご両親に彼がどのような生活を送っていたのかを聞くと、やっぱり道ばたで、裸足でブラジルの子供たちとストリートサッカーをしていたそうです。
 
 日本では「道でボールを蹴ったら危ない」って怒られてしまうし、そういう文化もない。そのストリートサッカーでは、子供たちの年齢の壁を超え、ルールも全部自分たちで決めてやっていたみたいですね。空き缶をゴールに見立てたりして、裸足で自由気ままにやっていた。今の日本では、サッカー教室とかスクールもまるで塾のようになっていて、「そこに行かないとサッカーが出来ない」という環境になってしまっていますよね。
 
 謙佑はブラジルの子供たちの中に混じって、見よう見まねで身につけたものが身体のなかにDNAという形で身に付いている。小さい頃に遊び感覚で会得したものがあるんだけれど、本人はそのことに全く気づいていない。記憶もあるわけでもない。だけど、それが今じわじわと目に見えてきているのではないでしょうか。
 
小澤 乾監督が永井を初めて見たのは、どのくらいの時期でしたか? 
 
乾 注意して見るようになったのは高校2年生の頃ですかね。ある程度、速さの頭角を現してきた頃なんですが、当時坪井(慶介/現浦和レッズ)という日本でも“速い”という選手がうちにいて、自分の感覚的に“速い”というのがわかっていたのですね。しかし、また“速さ”の質が違うというか、いわゆる初速が他の選手とは違っていました。
 
 サッカーの中で特に大事なのが、5メートル~10メートルでどれくらいトップスピードに入れるか、トップギアに入れるかというところ。その入り方が、今まで見て来た選手の中でも、見たことの無い部類にありました。そう感じてから、「ちょっと違うな」と彼を見るようになりました。
 
小澤 杉山監督は、どのあたりから「永井のスピードは違う」と感じるようになりましたか? 
 
杉山 練習の最後のリレーとか、合宿でビーチにラダーやコーンを置いて走ったり、ビーチフラッグとかさせたりすると、速かったですね。並んでヨーイドンとすると。そういう部分は、1年生の冬場ぐらいには頭角を見せ始めました。逆に、ロングランは特にダメでした。
 
小澤 それは体力的な部分なのでしょうか、それともメンタル的な部分で、ロングランになるとだるく感じてしまうのでしょうか? 
 
杉山 いや、本当に走っていなかったんだと思います。ただ持っている潜在能力はあったでしょうから、ジャンプ系のトレーニングや階段を走らせていくうちに、持っていたものが目覚めてきた部分がありました。

<(2/6)へ続く>

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【@ichiroozawa】育成にこそ最高のジャーナリストがいるべき  

 一足早く開幕した女子サッカーでは昨日、なでしこが順調に白星スタートしたようだが、本日はいよいよロンドン五輪男子サッカーの開幕。私も25日、グラスゴー入りした。空港に到着した直後の感想は「意外に暖かい」。陽射しも強く、日中であれば半袖でも快適に過ごせる気候だ。
 
 とはいえ、ここはスコットランドのグラスゴーということもあってか、町中で五輪開幕の雰囲気、盛り上がりを感じることは少なかった。ホテルの部屋でTVを付けても無料で映る民放チャンネルでは女子サッカーをやっていない。
 
 さて、男子サッカーの現地観戦は初戦のスペイン対日本の試合のみ。しかも、チケットをスペインの知人経由で購入してのプライベート観戦であって、取材ではない。結論を言うと、取材パスは下りなかった。
 
 現地観戦するということ、相手がスペインということで、初戦の試合だけはこれまで通りスポーツナビのマッチコラムを受けることにしたが、取材ではないということもあって当初は受けるつもりもなかった。また、他の試合についても日本でTV観戦をした上でのマッチコラムを依頼されたのだが、丁重にお断りした。
 
 何が何でも現地取材にこだわっているわけではないが、やはり代表への関心度が高い日本においてそれが例え五輪代表であったとしても記者は最低限取材パスを受け、現地取材をした中で記事を書くべきだと思っている。ブラウン管から映し出される映像から一定の試合分析はできるとはいえ、やはり現地の空気感やアップ、ハーフタイムの動向を含めた原稿は自宅でTV観戦するだけでは限度がある。
 
 今回の関塚ジャパンはアジア予選から1年以上かけて継続取材することができた。それができたのもスポーツナビのお陰であり、アジア予選のアウェーゲームであってもエアーとホテル代をほぼ全て負担してもらった。フリーのサッカージャーナリストとして仕事をしていて、出張費を負担してもらう形での海外出張というのは一部負担こそあれ、ほぼ全額の負担はまずないと言っていいだろう。
 
 「私に任せてくれた」、「お金を出してくれた」という私的な理由ではなく、スポーツナビという媒体がフリーの記者を番記者的に使ってチームに帯同させた行為自体を私は高く評価する。それが私ではなかったとしても私は確実に評価する。
 
 その流れで見ると、五輪本大会での記者取材パスを確保することなく、場当たり的に申請を受けた他のフリーランスの記者に本番だけ仕事を頼む行為は残念に思えてならない。こちらも私が「行けなくて悔しいから」ではなくて、アジア予選からそこまでやってきた以上、本番での仕事や記事を想定した上で逆算したスケジューリングや調整を行なうべきだったと感じる。
 
 スポナビに恩義は感じているからこそあえて書くのだが、このメルマガで何度も苦言を呈してきた通り、こうした事態というのはマスメディアに本気で「記者を育てよう」、「媒体のステイタスを上げよう」という気概がないことの証明として受け止められかねない。こうしたやり方で通用してしまうような世界であれば、日本のサッカージャーナリズムは永遠に成長しないループのままだろう。

2012年07月26日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この3倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※

【@ichiroozawa】「日本との初戦が最も難しいと見ている」 アリツ・ガビロンド記者(AS) U-23スペイン代表インタビュー  




 
――EURO2012出場組も合流しましたが、今のチーム状況は?
 
アリツ記者 ほぼパーフェクトの状態。EUROに出場した3選手(ハビ・マルティネス、マタ、ジョルディ・アルバ)の経験というのは、オリンピックのような大会ではチームに大きな力をもたらすはず。チアゴ・アルカンタラの欠場がゲームメイクの中盤で響く可能性はあるものの、メダル争いをするための選手層はある。長年一緒にプレーしている選手たちであり、選手たちが互いの特徴をつかんでいるのは大きい。
 
――ルイス・ミジャ監督が求めるプレースタイルは?
 
アリツ記者 A代表と同じスタイルだ。つまりは、常にボールを支配しながらコンビネーションで相手の守備を崩していくサッカー。守備では失ったボールを素早く奪い返し、サイドに張る選手よりも彼らは中に入ってゲームメイクや決定的な仕事をする。
 
 また、中盤にはトップ下タイプの質の高い選手を揃え、フォワードは前線中央でグローバルなプレーを求められる。今回のロンドン五輪に出場するメンバーたちは、いずれもアンダー代表で欧州選手権などの国際大会で結果を出してきている。U-23の選手たちとはいえ、経験値は高く、そのままA代表として国際大会に出場しても遜色ないだろう。
 
――ミジャ監督の基本システムは?
 
アリツ記者 A代表と同じく(1-)4-2-3-1が基本のシステムだが、攻撃の時には(1-)4-1-4-1に変形する。両サイドの選手はウイングというよりもインテリオール(セントラル)としてプレーし、中央のバイタルエリアに積極的に入ってくる。両サイドバックも攻撃的で、機を見たオーバーラップで相手の急所を突く。
 
――先発予想は?
 
アリツ記者 GKはデ・ヘア、DF右からモントーヤ、ボティア(イニィゴ・マルティネス)、ドミンゲス、ジョルディ・アルバ、MFはボランチにハビ・マルティネスとアンデル(コケ)、2列目右からムニアイン、マタ、イスコで、前線1トップにアドリアン・ロペス。
 
――ルイス・ミジャはどういう監督ですか?
 
アリツ記者 バルセロナのDNAを受け継ぐクライフの門下生だ。選手との会話を大切にする紳士的な監督で話し合い、議論を好む。サッカー的には想像の通り、ポゼッション、パスサッカーを志向し、選手の人選についてもその志向が色濃く反映されている。まだ若い監督であり、スペインの中でも将来を嘱望されている監督の一人だ。
 
――チームの長所と短所は?
 
アリツ記者 長所としてはまず、長年一緒にプレーしていることだろう。昨年デンマークで行なわれたU-21欧州選手権のメンバーがそのまま残っており、スペインはその大会でスイスを破り優勝している。さらに、そのメンバーの中に今回のEURO2012優勝メンバー3選手がいる。
 
 一方で短所というか、ネガティブな要素になるのだが、現時点でスペインサッカー界はタイトルが当たり前となり、ロンドン五輪のような難しい国際大会でも平気で「金メダル」が求められている。その目標の高さが選手にとってはプレッシャーとなり、チームに悪影響を及ぼす危険性もある。とにかく、スペイン国民は今や勝つことに慣れてしまったので、選手たちは大変だ(苦笑)。
 
――セネガルとメキシコの親善試合をチェックすると、チアゴ・アルカンタラの欠場が非常に大きいと感じました。ティキ・タカの軽快なリズムでパスサッカーをするこの五輪代表にとって彼不在の解決策はあるのでしょうか?

2012年07月20日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この5倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※

【@ichiroozawa】「最高のGKコーチとは育成にいるものだ」 “生ける伝説”のスペイン人GKコーチ、ジョアン・ミレット 

(株)アレナトーレ



■“生ける伝説”のスペイン人GKコーチが来日

 13日に関西国際空港に降り立った、スペイン人GKのジョアン・ミレット。スペイン4部に所属するセミプロクラブのSDゲルニカのGKコーチでありながら、「スペイン最高のGKコーチ」という評価を受け、『生ける伝説』としてGKの育成とGKコーチの育成に人生を捧げている人物だ。

 8月上旬まで約3週間弱の日本滞在となるが、先週末に大阪学院大で行なわれた初回のGKクリニックは大盛況に終わった。私は取材できなかったものの、聞くと座学講習に75名、ピッチでの実技講習はコーチ・選手合わせて100名以上が参加したという。16日には総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント決勝(専修大対阪南大)の試合をジョアンの隣で観戦し、彼のGK分析を間近で見ることができた。

 詳しい分析項目や分析法については企業秘密の部分もあり詳しくは明かせないのだが、彼は片方のチームのGK分析を90分間行なった。スタジアムに向かう前の打合せでまずジョアンがリクエストしたのが、ウォーミングアップからのチェックだ。

「アップから試合は始まっている。GKコーチがボールを蹴ってキャッチングすることがGKのアップではない」と語る通り、スタジアムに到着したジョアンは鋭い目線でGKのアップ、動きを観察する。すると、彼から「あのGKは左利き、左投げか?」という質問が出る。それを知る由もない私は「わからない」と答えながら、「なぜそんなことを聞くのだろう?」と感じた。

 試合開始前、メインスタンド記者席に上がった我々はジョアンに「どこに座ろうか?」と聞く。するとジョアンは「分析するGKに一番近い机だ」と答え、右端最前列の記者席に陣取った。キックオフの笛がなり、プレーが流れるや否や飛び込んできたのが首をかしげるジョアンの姿。しかし、ボールは敵陣にあり、GKはプレーに関与していない。そう感じた瞬間にジョアンが発した言葉が、「あのGKのポジショニングではDFラインが相当に苦労することになる」というものだった。

2012年07月20日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この5倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※

ジョアン・ミレット(スペイン人GKコーチ)来日直前インタビュー【全文掲載】 

2012年07月13日配信のメルマガより全文掲載。メルマガ本文では、こうしたコンテンツ以外にも濃密なコンテンツを多數取り揃えています。ぜひご購読ください。※



「現代サッカーにおいてGKは最も重要なポジション」



 ピカソの絵画として有名な都市、ゲルニカ。その絵画に描かれているように、スペイン内戦中にナチス軍によって受けた都市無差別空爆という悲劇の歴史を持つゲルニカをホームタウンとするサッカークラブが、ゲルニカSDだ。

 ゲルニカSDには、「スペイン有数のGKコーチ」として知られる人物がいる。彼の名は、ジョアン・ミレット氏。トップチームはここ8シーズン、スペイン4部の所属で、いわば「ごく普通の街クラブ」。しかしジョアン・ミレット氏が育てるGKたちは、この8年間で次々とスペインの強豪アスレチック・ビルバオに巣立っており、現在トップチームで活躍するゴルカ・イライソスを含め、ゲルニカSD出身のGKがアスレチック・ビルバオに4名も在籍する。

 そのジョアン・ミレット氏が13日に来日し、大阪、関東でGKクリニック、講習会を開催(主催:株式会社アレナトーレ)する。

<ジョアン・ミレットGKクリニック開催要綱>
指導者、GKコーチ問わずご参加可能です。多くの皆様にご参加頂き積極的な意見交換のできるクリニックにしたいと思います。

時間、申込方法などの詳細は下記リンクからご確認下さい!
お申し込みお待ちしております。

<大阪>
 ◆7/15(日)大阪学院U15フェスティバル
  → http://www.sn-osaka.com/

<千葉>
 ◆7/22(日)千葉(柏レイソル / U12対象)
  → http://blog.reysol.co.jp/news/2012/013862.html

<神奈川>
 ◆7/24(火)平塚(湘南ベルマーレ / U12対象)
 ◆7/26(木)平塚(湘南ベルマーレ / U15〜U18対象①)
 ◆7/27(金)平塚(湘南ベルマーレ / U15〜U18対象②)
  → http://www.bellmare.co.jp/56709

<東京>
 ◆7/30(月)町田(町田ゼルビア / U13-U18対象(講義))
 ◆7/31(火)町田(町田ゼルビア / U13-U18対象(実技))
  → http://www.zelvia.co.jp/news/news-16328/

 史上初のEURO連覇を達成したスペイン代表のGK3選手(カシージャス、レイナ、バルデス)を見ればわかる通り、今やスペインは「GK大国」としても知られる強国となった。

 そのスペインにおいて、「次にゲルニカから輩出するゴールキーパーが私にとって最高のゴールキーパー」と断言するジョアン・ミレット氏が来日を前に今の心境、クリニックを通じて日本のGKおよびGKコーチに伝えたいことを語ってくれた。


■重要なのは「誰から教わっているか」

――来日直前(13日)となりましたが、今の心境は?

ジョアン・ミレット(以下、ジョアン)
 2年前に初めて日本を訪問し、今回は数多くのクリニック、講習会の開催を準備してもらっているので、前回よりも多くのことができるとワクワクした気持ちでいます。何より、多くの日本人との出会いを楽しみにしています。

――あなたのGKトレーニングメソッドについて簡潔に説明下さい。

ジョアン
 私のGKトレーニングは、正確に言うと「トレーニングする」のではなく、「GKとしてプレーすることを教える」です。トレーニングには確かにいいメニュー、楽しいメニューがありますが、大切なことは選手が「なぜそのメニューを行なうのか」を理解してトレーニングすることです。

 そのメソッドの中でGKとしてプレーすることを覚えると、選手はミスをした時に「何が原因で起こったのか」を説明できます。当然ながら、そのミスを修正することも可能となります。GKとしてプレーすることを教えることは、選手が自らのプレーを分析し、改善できるようにすることなのです。

――前回の来日でも日本人GKのプレーやトレーニングを見ているということですが、日本人GKについてどういう印象をお持ちですか?

ジョアン
 スペインとは異なるレベルですね。国のGKレベルで最も重要なことはそのポテンシャル、能力ではなく「誰からプレーすることを教わっているか」です。その意味で、日本のGKコーチはより良い準備をする必要があると思います。ただ、今や世界的に見ても高いレベルにあるスペインも、私がGKコーチのキャリアをスタートさせた頃には『GKコーチ』というポスト自体が珍しいものでした。

 GKの指導が行き詰まった時期にスペイン全土を転々としてGKトレーニングを見学しましたが、問題は「ただ単に蹴られたボールを受けて、練習をこなしている」状態に陥っていることでした。なので、私は分析用に各地でのGKトレーニングをビデオに収めながら、どうすればGKとしてプレーするための技術、戦術を高めることができるのか、そのためのトレーニングメニュー構築に時間を割きました。

 日本も、スペインや私のケースのように短期間でレベルアップすることは可能です。そのためにもGKコーチという存在に注目が集まり、彼らがしっかりとGKのプレーを分析し、日常に落としこむ必要があると思います。GKコーチにとって最も重要なことは、「なぜそのプレーを練習するのか」について明確な回答、ロジック を持つことです。


■GKは「手も使える選手」でなくてはならない

――現代サッカーにおいてGKの重要性というのはフィールドプレーヤー以上に増している印象です。

ジョアン
 その通りです。あくまで個人的な意見ですが、現代サッカーにおいてGKは最も重要なポジションであり、GKには選手としてコンプリートな能力が求められます。私の定義では「GKは手を使うポジション」ではなく、「サッカー選手としてのプレーが求められた上で、さらに手も使わなくてはいけないポジション」です。

 だからこそ、GKは手を使ってシュートを受けるのみならず、どのような状況に応じることができるプレーを身に付ける必要があります。

――あなたの所属するゲルニカからは優秀なGKが多数出ており、ゴルカ・イライソスのようにアスレチック・ビルバオに引き抜かれた選手も多いと聞きます。これまで何度も聞かれたでしょうが、「なぜ」ですか?

ジョアン
 はい、何度も聞かれました……(苦笑)。まあ、一番の理由というか、私は毎日午後5時から9時までグラウンドで働いています。ゲルニカのGKたちは、私と週に3回GKセッションを行ないます。彼らがチーム練習に入るのは週に1日のみ。

 日本に行った際、私の年間スケジュールやプログラムについて詳しくお伝えする予定ですが、私は全カテゴリーのGKに対応できるだけのセッション、プログラムを用意していて、それは選手個人の特徴によっても変化させています。つまり、個別のトレーニングまで用意しているのです。

 ピッチで働く時間は毎日4、5時間ですが、自宅でも毎日4、5時間は働いています。具体的にはビデオを見て分析をしたり、プログラミングですね。GKコーチとしてこれだけ働いている人はスペインの中でそう多くないと思いますし、もちろん日々質を高めるための努力も行なっています。

――スペイン代表の連覇で終わったEUROにおいても、スペイン代表のGKレベルの高さは際立っていました。カシージャスはもちろん、ベンチに控えていたレイナ、ビクトル・バルデスも他国の代表ならば間違いなく正GKを務めるレベルだと思います。これだけスペイン代表のGKレベルが高い理由は何かあるのですか?

ジョアン
 彼らの世代に優秀なGKが多かったという偶然性はあると思います。ただ、裏を返せばそれだけGKの育成やGKコーチの基盤がしっかりしている証拠だと思います。次の段階としては、GKコーチの指導や戦術がチームを指揮する監督に理解されることだと思います。

 例えば、よく「GKはシュートを止めるポジション」という言い方がなされますが、私は違うと思います。GKの本質的な仕事とは、「シュートを止める」ことではなく、「シュートをゴールインさせないこと」です。よって、『シュートストップ』というよりは、『シュートブロック』と表現する方がいいでしょうし、そのための方法としてセービング、パンチングの技術を用います。

 今回のEUROをGKコーチとして分析した時、直接フリーキックでGKがキャッチングしたケースはどのくらいありましたか? 答えは、「1つもなかった」です。全てパンチングやディフレクティングでシュートブロックしていました。

 ボールの進化もあって今やトップレベルのGKには「シュートを止める」、「シュートを受ける」という概念はなくなっていますし、だからこそトレーニングにおいてもシュートブロックするためのシステム、戦術を構築するメニューが重要なのです。

■ただ疲れる練習はしない

――日本であなたのクリニックを楽しみにしている選手、指導者にメッセージをお願いします。

ジョアン
 疲れるのではなく考える、楽しめる練習を準備して行きますので、楽しみにしていて下さい。私が重視しているのは、選手が1日の練習を終えて自宅に帰った時に、「今日はどんな練習をして、何が改善したのか」を理解し、心身共に充実した状態を作り出すことです。

 往々にして選手というのは、練習で疲れを感じ、睡眠欲を高めるものですが、本当にいい練習をすれば「もっと考えたい、もっとうまくなりたい」という意欲を持ち帰ることができます。「あぁ、疲れた。早く寝たい」となるようなトレーニングにはなりませんから、いろいろな人に私のトレーニングを体験してもらいたいです。

――来日時には東日本大震災で大きな被害を受けた東北を訪問するそうですね?しかも、それはあなた自身がイニシアチブを取ったと聞いています。

ジョアン
 前回日本に来た時、日本に住む知人に「日本という国は本当に美しく、素晴らしい。いつか住みたいと思える国だ」と話しました。そういう国に昨年、あの大きな震災が降りかかりました。私はその悲劇を聞いた直後から、「何かしなければ」という衝動に駆られていました。

 今回の来日が決まった時、ぜひとも東北の仙台や福島に行って、子供たちにGK指導やサッカーを通じて笑顔をもたらしたいと考えました。実際、主催者に東北行きのスケジュールを組んでもらいました。同時に、私はゲルニカの市役所やクラブに掛け合って、人災とはいえスペイン内戦時に大きな被害を受けたゲルニカの街を代表して被災地の子供たちにGK指導のみならず、『ゲルニカからの贈り物』を届けられるような準備を進めています。

<了>

【プロフィール】Joan Miret (ジョアン・ミレット) 
1960年11月生まれ、カタルーニャ州出身。スペイン人GKコーチ。スペイン2部、3部のチームでプレー後、怪我により24歳で現役を引退。1985年からテラッサ(2部)で育成ゴールキーパーコーチを務めるも、望むような成果が出せず悩んだ結果、現場を離れ、各地を回って練習見学を行なう。2002年からバスク州にあるゲルニカに拠点を移し、ゲルニカSDにて育成/トップのGKコーチを務める。そのゲルニカSDからはアスレチック・ビルバオの正GKゴルカ・イライソスら優秀なGKが多数育っている。ビルバオ(バスク州)のコーチングスクールでは、ゴールキーパーについての技術、戦術の講師を務める。スペインサッカー協会主催ゴールキーパーマスタークラス取得。



小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」

【@ichiroozawa】坪井健太郎のラ・ロハ分析[4] 決勝(イタリア戦)  

――EURO2012は、スペインの優勝で幕を閉じました。決勝イタリア戦の感想と、戦術的ポイントをお願いします。

坪井健太郎氏(以下、坪井氏) スペインは最高の試合を見せてくれました。それぞれのタレントが能力を発揮し、見事に噛み合ったという印象です。「勝ちたい」という気持ちがプレーに表れ、前からアグレッシブにプレッシャーをかけにいき、プレーリズムも高かった。連覇への、非常に高いモチベーションが見られました。

 戦術的なことを言うと、センターフォワードにセスクが入る「ファルソ・ヌエベ(偽9番)」の形から入りました。このシステムで大会中に実戦を重ね、それぞれの役割が明確になり、ファイナルになって完成形となったと思います。

 イタリアはまず守備から入り、2トップにロングボールを入れて攻撃の起点を作るという狙いでした。1―4―4―2の中盤はダイヤモンド型だったので、ブスケッツとシャビ・アロンソがイタリアの中盤の選手にマークに付かなければいけない場面がありました。そのせいもあり、イタリアの2トップとスペインのセンターバックが2対2になる状況も起こっていました。突破されてもおかしくありませんでしたが、ピケとセルヒオ・ラモスがなんとかこらえていました。

 スペインがビルドアップを組み立てる時も、イタリアは積極的にプレッシャーをかけてきました。そこをかいくぐれるかどうかもポイントだったと思います。これに関しては、セスク、シルバ、イニエスタの3人が、ピルロの両脇のスペースを上手く使ってマークをはがしたと思います。

――イタリアはスペインとの初戦で採用した3バックではなく、大会を戦う中で安定感を出した4バックでした。ただゲームプランとしては、前線からプレスをかけスペインに自由にボール回しをさせない、あるいはカウンターでシンプルにゴールという同じ狙いだったと思います。初戦と比べて、イタリアに戦い方の変化はありましたか?

坪井氏 初戦では前3人がプレッシャーをかけていましたが、決勝では中盤も含め5人がかなり前からプレッシングに来ていました。この違いはあったと思います。スペインのDFラインから中盤に配給されるボールにも、人数をかけてプレスに行く狙いが見られました。

――それでもスペインがプレスをかわし、ゴールを奪った要因は?

坪井氏 厳しいプレスの中でもショートパスをつなぎ、スペインらしさを存分に表現できたことだと思います。戦術的な狙いももちろん、お互いのスタイルを出し合った結果スペインが一枚上手だったのだと思います。前半の早い段階に試合が動いたのも、大きな影響を与えていると思います。

――前半のスタッツでは、イタリアがボール支配率でスペインを上回り、シュート数も枠内含め同数でした。決勝の前半は、スペインがボール支配率で劣った唯一の45分でした。その中でもリードを奪えたということは、スペインに「ただ単にパスを回すだけでなく、相手にとって嫌なポイントにパスを通そう」という狙いがあったからだと思います。

坪井氏 デス・マルケ(マークを外すオフ・ザ・ボールの動き)が利いていました。特に、イタリアのセンターバックとサイドバックの間のスペースに入る動きが機能し、そこにチャビやイニエスタから精度の高いボールが配給されました。ジョルディ・アルバのゴールもそういった形で生まれたものです。

――イタリアの前線からのプレスをはがした要因として、カシージャスからのキックも見逃せないと思います。ジョルディ・アルバが決めた2点は、イタリアの前線のプレスを越したカシージャスからセスクへのミドルパスでした。

坪井氏 そうですね。育成年代から培われてきたものが、このレベルでも還元されているという印象です。

――今大会、「シャビの調子が良くない」と言われながら、決勝戦では存在感を示しました。彼についての評価は?

坪井氏 ラストパスの精度が素晴らしかったです。ジョルディ・アルバへのパスは、彼以外の選手にはなかなか出せないレベルのものでしょう。2メートルほどしかない小さなスペースに出す技術、パスを出す前のボールの運び方やタイミングの探り方も見応えがありました。


シャビのドリブルは真っすぐに進むのではなく、必ずボールタッチの角度を微妙に変えながら進みます。ディフェンダーの立場からすれば、その微妙な角度の違いで対応が変わり、それが守備に微妙な混乱を発生させます。そういった細かいボールタッチがいかにも彼らしいものでしたし、中盤でのボールさばきについてはバルサでやっているいつも通りのコントロールでした。

――デル・ボスケ監督のゲームプランは、どういうものだったのでしょう? イタリアが前がかりにプレッシャーをかけてくると予想して、前半はカウンター気味に攻め込む狙いも持っていたのでしょうか?


2012年07月05日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この5倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※

坪井健太郎

【プロフィール】坪井健太郎(つぼい・けんたろう)

1982年静岡県生まれ。静岡学園卒業後、自らの夢を果たすべく広島県に渡り、安芸FCにて指導者への道を歩み始める。清水エスパルスサッカースクールを経て、2008年4月よりスペインバルセロナに移住。9月からC.E.エウロパU-16のアシスタントコーチとして3シーズンを過ごし、昨季は同クラブのアレビンの第一監督を兼任。昨季は、U.E コルネージャのユースBアシスタントコーチを務めるなどスペインでもその指導手腕が高く評価されている。来シーズンは同クラブのユースCのアシスタントコーチを務める。(ブログ:http://ameblo.jp/uno-dos-tres/

2012年シーズンから日本人指導者の為の指導者留学プロジェクトPreSoccerTeamにも参加し指導者の育成も務める。
リンク: http://www.presoccerteam.com/ja/home.html
ブログ: http://www.plus-blog.sportsnavi.com/presoccerteam/

【@ichiroozawa】坪井健太郎のラ・ロハ分析[3] フランス戦  

――2-0でスペインが勝利したフランス戦の率直な感想をお願いします。
 
 坪井健太郎(以下、坪井氏) スペインはここにきてチームとしての熟成度が増してきた印象です。ここまで4試合を戦ってきて、徐々に各選手の役割が明確になってきたなと。あとは、ボールポゼッション率が高いですから、早めに先制点が取れたことがこの試合の大きなポイントとなったというのが全体的な感想です。
 
――この試合では、トーレスではなくセスクがセンターフォワードで起用されました。「ファルソ・ヌエベ(偽9番)」の狙いはどう見ましたか?
 
坪井氏 トーレスとセスクのどちらを取るかという判断は相手チームとの兼ね合いもあり、「どちらがいい」という答えを出すことは不可能です。結果的に、途中からトーレスが出てきたのはすごく効果的でした。
 フランスは、後半に入って前線からプレスにきて、全体的にディフェンスをするときに高い位置をキープしていたので、奪った時のカウンターを確立する意味では、トーレスが入ったことによって、よりチャンスができました。流れとして、セスクから入って、相手が前に出てきた時にトーレスというのはすごく効果的でした。
 
 戦術的なことで言うと、サイドの駆け引きはフランスの右サイドの選手(ドゥビュシー)がジョルディ・アルバに張り付いてすごくディフェンシブな対応。一方で、逆サイドのリベリーは守備に参加せずオフェンシブな戦術で、サイドのスペースを空けていたという駆け引きというか攻防は見応えがありました。
 
 1点目のシーンで言うと、イニエスタが中に入って行き、フランスのサイドバックの選手(レヴェイエール)がほぼマンマークの状態でついて行ったので、そのスペースを突いたジョルディ・アルバのオーバーラップからの崩しとクロスからシャビ・アロンソが得点。逆サイドはリベリーが戻らないので、アルベロアが終始フリーでボールを受けるシーンが多かったように思います。
 
――フランスはスペイン対策で右サイドのレヴェイエールがイニエスタにマンマーク気味でつく分、ドゥビュシーをサイドハーフに使い、ダブル右サイドバックのような形でスペインの左サイドを封印しようとしました。中盤のトリプルボランチのような構成、ナスリを外す選手起用など、ブラン監督の采配をどう見ますか?
 
坪井氏 おそらく、ブラン監督が考えたベストのやり方だったのではないでしょうか。最初は守備的な布陣で我慢をして、スペインのフィジカルがもたなくなったところでナスリを入れた意図はわかります。まず守備のことを考える守備的な采配というのは、スペインを相手に戦うチームとしては一般的な戦い方だと思います。
 
 ただ、イニエスタのスルーパスや個人技にやられてしまった部分は仕方のないことではあります。イニエスタを止めろ、メッシを止めろと言っても、それには運も必要なくらい難しいことです。そこでやられてしまったことは、おそらくブラン監督の頭には事前のプランとしてあったと思います。「1点やられた時にはこういく」というゲームプランは明確だったと思います。
 
――確かに、フランスのパフォーマンスが悪かったというよりも、今大会目立っているスペインの守備がよかったという印象です。この試合でも、フランス相手に被シュート数が4本、枠内が1本で、リベリーのクロスから少しヒヤッとしたシーンがあるくらいでした。今大会4試合でまだ1失点のスペインの守備については、どう評価しますか?
 
坪井氏 DFラインとの関係を見た時にボランチのブスケッツとシャビ・アロンソの役割が試合を重ねるごとに明確になっていて、すごく安定感が出てきた印象です。フランス戦で言えば、ブスケッツの方がオフェンシブな役割をこなして、シャビ・アロンソがDFラインに近いところにポジションを取っていました。二人が重なっていなかったし、その微妙なバランス感覚は試合を重ねるごとに良くなっています。共有するイメージというものができてきたと思います。
 
――確かに、シャビ・アロンソが1点目のような形で上がって行き得点を奪ったので、「攻撃的なイメージ」を持つ人が多いかと想いますが、実際はブスケッツが上がり気味で、シャビと近い距離感を取っていました。個人的には、シャビ・アロンソが代表でもレアル・マドリードでやっている仕事を担えるようになってきたという印象ですが、その意味でも彼ら二人のコンビネーションは良くなってきました。
 
坪井氏 チームとしてのコンセプトの熟成とイメージの共有が、試合を通してでき上がっているように見えます。
 
――日本的な考えでは、微妙なポジショニングさえも事前に指導者がプランニングして、落とし込んでいるように思いがちです。しかし、スペイン代表の試合を見ていると、試合の中で調整しながら解決する能力が秀でているように思います。「ピッチ内で、自分たちで解決する」という感覚は、特に日本の育成現場では希薄だと思いますが、坪井さんの印象は?
 
坪井氏 この前お話ししたように、小さい頃から育っていく中で「サッカーとはこういうスポーツなんだ」「サッカーをプレーするというのはこういうことなんだ」という背景があるのとないのとの違いではないでしょうか。
 
 今回のケースでも、ダブルボランチが同じところに重なっているのではなくて、どちらかが上がれば、どっちかが残る。それはリーガ1部のトップレベルでやっている選手たちにとって、できて当たり前のことです。でもそれは、小さな頃からいろいろなサッカーやプレーを見てきた結果ではないかと思います。
 
 教えるべき部分と、任せる部分の認識の違いが日本とスペインでは違います。スペインでは、大まかなタスクは与えますが、細かな解決方法は選手に任せるというのが一般的です。


2012年06月30日配信のメルマガより抜粋。メルマガ本文では、この5倍近いボリュームで濃密なコンテンツを取り揃えています。ぜひご購読ください。※

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