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「出来上がった料理だけを見て論じても意味がない」 バルサという料理の作り方  浜田満氏(株式会社Amazing Sports Lab Japan代表取締役)インタビュー @ichiroozawa 

写真提供:株式会社カンゼン

 
 昨年12月に株式会社カンゼンより刊行された『FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドのすべて チャビのクローンを生み出すことは可能なのか』は、スペイン国内、そしてバルセロナで活動するジャーナリストとして最も高い評価を受けるマルティ・ペラルナウ氏の『Senda de campeones: De La Masia al Camp Nou』を日本語訳したものである。この書籍を現地スペインで見つけ、監修・訳者として日本での出版まで尽力したのが株式会社Amazing Sports Lab Japanで代表取締役を務める浜田満氏だ。
 
 FCバルセロナのみならず、ミランやアーセナル、ユベントスなど欧州ビッグクラブのライセンスビジネス、マーケティングに携わり多忙な毎日を送る浜田氏には、現在好評発売中の『フットボールサミット第12回 FCバルセロナはまだ進化するのか?』向けにインタビューさせて頂いた。そのインタビューの一部を今回、当メルマガで掲載する許可を頂いた。
 
 『FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドのすべて』は私もすでに読み終わっているが、一言感想を言わせてもらうと「ここまでバルサの育成について深く記述した本に出会ったのは初めて!」というもの。今やカンテラでさえ取材規制が厳しいバルセロナにおいて、カンテラの現状やスカウトシステムとスカウティングポイント、それから育成メソッドに至るまでここまで詳細に取材できるジャーナリストは間違いなく、ペラルナウ氏しかいない。
 
 少なくとも、日本サッカーにおいて育成に関心がある者、関わりのある者は必ず読むべき必読書であり、私はこの本を単なる書籍に留まらず“教科書”的価値を持つ育成本、バルサ本だと認識している。個人的に“超”お薦めの本であるので、まだの方はぜひ。
 
 
 《参考リンク》
 FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドのすべて
 http://jr-soccer-shop.jp/products/detail.php?product_id=199
 
 フットボールサミット第12回 FCバルセロナはまだ進化するのか?
 http://jr-soccer-shop.jp/products/detail.php?product_id=908
 
 
 【プロフィール】浜田満(はまだ・みつる)
 1975年奈良県生まれ。(株)Amazing Sports Lab Japan代表取締役。関西外国語大学スペイン語学科卒業。自身も高校時代までサッカーに打ち込む。現在はスペイン、イタリア、英語の三か国語を操り、FCバルセロナ、ACミラン、アーセナル、ユベントスなどの欧州ビッグクラブのライセンスビジネスやマーケティングに携わる。久保建英君のマネジメント業務をはじめ、サッカーサービス社と指導者クリニック、選手コンサルティングを行うなど、現在は選手育成業務に力を入れている。著書に『サッカービジネスほど素敵な仕事はない』(出版芸術社)、監修に『バルサ選手のジュニア時代 家族の愛に支えられ夢を叶えた者たち』(カンゼン)など。
 
 
――原書に興味を持ったきっかけは?
 
浜田氏 久保(健英)君がバルサの入団テストに合格した時、カンテラに関する情報が全くなかったことです。過去のバルサの情報は戦術やカンテラに関する記述はありますが、契約が何年なのか、どこまで面倒を見てくれるのか、そういった情報が全くありませんでした。それを探している時に見つけたのがこの本です。他のものと比べても格段に深い記述があり、すぐに惹き込まれました。これはもっと広く世に知らせるべきものだと感じ、1年半かけて翻訳、出版しました。
 
――著者であるジャーナリストのマルティ・ペラルナウ氏は、なぜここまでバルサと深い関係を持つことができたのでしょうか?
 
浜田氏 ひとつは、(ジャーナリストとして)高い評価を得ていることです。聞くところによると本当に良く勉強しているようで、バルサはバルサのサッカーを知っている人間を受け入れる傾向があります。さらに、彼自身が五輪出場経験もあるアスリートであること。それによって、バルサの人脈や信頼を得られたのでしょう。彼はすごく頭のいい人間で、書く文章も考えが巡っていると感じさせるものです。ただ、原書では個人情報がかなり開示されており、それが原因で地元ではこの本に賛否両論あったようです。
 
――確かにここまで赤裸々な情報を網羅している書籍に出会ったのは初めてです。バルサBの選手の給料など、初めて見聞きする内容、情報ばかりでした。
 
浜田氏 そういった内容がスペインで発表され、公になっていたので、日本でもぜひ、と思いました。その意味で賛否両論あったのは理解できます。日本人は戦術ばかりにフォーカスを当てますが、私はあまり好きではありません。例えばバルセロナでも今のトップの戦術、サッカーに行き着くまでにとてつもない積み重ねがあり、トップの出来上がった料理だけを見て論じても意味がないと思うからです。
 
 素材を調達するところから全部見た上で最後の料理を見るべきではないでしょうか?出来上がった料理を食べても「おいしい」としか言えませんし、素材の調達方法、料理の過程などを見る意味でもこの本は一助になると思います。
 
――原書で特に面白かった内容は?
 
浜田氏 バルサがセスクのようなケース、プレミアへの選手流出を防ぐために採っている対策について記述している部分があり、それは面白かったですね。法的な対策はできないので、選手に「バルセロナから出たくない」と思わせるのです。
 
 何をするかというと、選手に対して何かを提供するのではなく、“バルサにいること”の価値を提供しています。それに高い価値を与えることで、チャビのように選手を長く留めています。バルサがバルサという価値を高めようとしているのは必要なことだからであって、それはこの本を読めば非常に良くわかります。
 
――15歳のセスクに対してアーセナルはどのようなオファーを出したのですか?
 
浜田氏 トップチームでのデビューまでを確約したオファーです。また、バルセロナからロンドンへの移動はファーストクラスで、契約には家族のチケット手配も含まれていました。他にも様々ありますが、内容を見ればアーセナル行きに気持ちが傾くことも普通に理解できる内容です。スペインではプロ契約は16歳から、お金を積まれてしまえばイングランドのクラブに対抗できません。
 
 しかし、それをいかに食い止めるのか、恨み節ではなく「バルサでプレーしたい」と選手に思わせる教育をバルサは施しています。メッシ、チャビ、イニエスタなど、ピッチ外でも問題の少ない、ふるまいの大人な選手が多いのが今のチームです。しかし、それは偶然ではなくバルサが良い人格になるような教育を一貫して与えてきたからこそ、彼らのような選手が出てきたのです。
 
 最初から謙虚な選手を集めたわけではなく、バルサがそういった教育を与え、それにフィットした選手たちがあのレベルまで登り詰めたということなのです。成長過程で遊びやお金に目がくらんでしまうような選手は、おそらく途中で消えてしまいます。だから、もしイブラヒモビッチがバルサのカンテラでサッカーを始めていれば、全く違ったタイプの選手になっていたかもしれません(笑)。
 
 バルサの厳しい教育を見ていると、どれだけ尖った選手でも丸くならざるを得ないという印象を抱きます。悪い意味ではなく、論理的にも筋が通っていて、誰が聞いても正しいことを言っていますから当然なのかもしれません。
 
――バルサのカンテラの選手たちはどんな1日を送っているのですか?
 
浜田氏 午前中は学校に行きます。ラ・マシア(選手寮)から行く子はバスに乗って、実家暮らしの子は実家から通います。彼らはスポーツコースなので13時に授業が終わり、そこから全員がクラブバスでマシアに戻ります。学校は中学校までクラブが提携する私立学校です。マシアに戻って全員で昼食をとり、自由時間を挟んでからトレーニング、トレーニングが終われば実家組は各自で帰宅、マシア組は寮に帰ります。
 
 練習時間は19時から20時30分、フベニール(U-19)になると午前練もあるようですが、それ以下のカテゴリーは夜に1時間半くらいのトレーニングです。アレビン(U-12)までは週3回の練習、インファンティル(U-14)は3回か4回で、カデテ(U-16)からは4回になります。練習のない日でも選手たちは学校の後マシアに集まり、マシアで補講を受けてから帰宅します。中には実家からタクシーで片道2時間かけて通う子もいるようです。
 
――バルサのカンテラでは、年間1万人近い選手を観察し、そこから50人を選抜するスカウト網を構築しているということも記載されていました。
 
浜田氏 選手からの売り込み映像もかなりの数が届いているはずですが、実際に目で見るのがやはりベストのようです。バルサの育成には20人ほどのスカウトがいますが、カタルーニャの試合だけでも全てチェックしようと思ったらマンパワーが足りません。そのため、各カテゴリーのコーチたちがよく試合を見に行っているようです。
 
 対戦相手のチェックはもちろん、翌年の補強候補も定めています。各監督も自らのチームの補強ポイントを把握しているので、そこにフィットする選手を自分で探し、スカウトに情報を届けます。つまり、バルサの場合は単純にいい選手だからといってカンテラに入れるわけではなく、そのチームにおいて補強ポジションとなっているかどうかなどの要素も関わってきます。
 
――長年バルサやスペインの育成メソッドと関わりを持つ浜田さんから見て、日本の育成の改善点は?
 
浜田氏 トレーニングにはより実戦に近い形でトレーニングを行うグローバルメソッドと反復練習がメインであるアナリティックメソッドの2種類があり、日本はアナリティックトレーニングに偏っていると言われています。バランスを整えるためにも、もう少しグローバルトレーニングに取り組む必要があるでしょう。
 
 しかし、これを言うと今度はグローバルトレーニングばかりとなってしまいますから、バランスが必要です。スペインは週3回、1時間半のトレーニングですが、日本は週4~5回練習するチームも多いです。ならば、週3回はグローバルトレーニング、残りの1~2回をアナリティックというように、日本に足りていないところを加えつつ、今の練習環境を維持するやり方がいいのではないでしょうか。特に、12歳までは個人戦術の基本的な考え方、足元の技術、絶対に必要になってくるベーシックな部分を身に付ける必要があります。
 
――最後に、葛飾区で開催されることになったバルサキャンプについてお聞かせください。
 
浜田氏 元々東京でスクールを開きたいという話がずっとあったのですが、なかなか実現できずにいました。そこで葛飾区と話をする機会があり交渉を続けていましたが、以前FCバルセロナのコーチが来ていないにも関わらず、FCバルセロナキャンプとうたったようなキャンプがあったためにFCバルセロナ側が慎重になっていました。
 
 そこで、今回FCバルセロナは1年間かけてFCバルセロナキャンプを行い、その評価を見た上で東京でのスクールを決定するという形になっています。是非ともキャンプを成功させ、スクールを実現させられればと思います。
 
 <了>

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